implexe: 2011年6月アーカイブ

住宅を設計する上で、一番大切なことは、何でしょうか。
建築はとても複雑なものなので、この問いに答えるのは、もちろん、そう簡単ではありません。
しかしそれを承知の上で、あえて答えるとするならば、どうでしょうか。

以前、僕は『住居はいかに可能か』という本を、東京大学出版会から出させていただいたことがあります。このときに僕は、「住居とは何か」ということを、ずっと繰り返し、考え続けていました。
そのときには、<新しい可能性としての住居>ということが、大きなテーマとしてありました。

多くの人々にとって、理想の住宅を持つことが「あこがれ」であり、「目標」でもあると思います。一方で、住宅を建てることは、とてつもなくお金がかかり、大変なことなので、一般の方々にとっても、大きな決断と心構えが必要となってきます。

広いリビングや緑あふれる庭、明るい部屋や眺めの良いテラス、使い勝手のいいおしゃれなシステム・キッチンや作り付けの大きな本棚など、家を考え始めることは確かに楽しいものです。それはまるで、旅行に行く前にプランを立てるときのように、関わる人たちをわくわく、ドキドキさせてくれます。

そうしたことも頭に入れた上で、では、住宅の設計で一番大切なことは、何でしょうか。

僕の考えではそれは、「そこに住まう人の知覚と意識を、日々、豊かにしていくこと」だと思っています。
そのためのアイデアと技術を積み重ね、それを豊かな空間へと具現化させることだと思っています。
僕はそれを、「知覚のテクスチュア」という言葉で表現してみました。

少し難しく聞こえるかも知れません。でもこれは、けっして適当に難解な言い回しをしているわけではありません。
人は、何のために、新しい家をたてるのでしょうか。この問いかけに簡単に答えるとすれば、さしあたり「より幸せになるため」と答えても、差し支えはないでしょう。
でも、それぞれの「幸せ」の様態は、とても複雑なものなので、住宅の設計がそのすべてに答えることは、恐らくできません。

私たちがそこでできるのは、その「幸せ」の一つの次元に、空間という形で応えることです。
それが、新しい「知覚のテクスチュア」を探り出そうとすることに、繋がっていくのだと、僕は考えています。

建築系ラジオで、以前、美術家の彦坂尚嘉さんとの対談で、そのことを語ったことがあります。2010年の新年に、「新春の集い」というタイトルで収録したものです。
関心のある方は、是非、聴いてみていただければと思います。


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