南洋堂ルーフラウンジの設計プロセス

今回は、南洋堂書店の屋上リノベーションを紹介します。

南洋堂書店は、東京・神田神保町に位置する、老舗の建築専門書店です。この建築自体、いろいろな建築家が関わっており、非常にユニークなビルです。

あるとき、以前からお世話になっている書店社長のAさんから、屋上のリノベーションを依頼され、三人の建築家による共同設計でプロジェクトを進めることになりました。今村創平さん、山本想太郎さんと僕の3人です。

Aさんのリクエストは、「書店としてのPRになるものをデザインして欲しい、ただし、カッコ悪い看板とかで、目立つようなものはダメ」というものでした。

そこで、3人でスタディを重ね、数多くの案を検討しました。こんな感じ。

設計プロセスの途中、せっかくなので、それらのスタディ案を並べて、南洋堂内のギャラリースペースで、展覧会をさせていただくことになりました。

その上で、来場した方々に人気投票をしていただき、そこで一番人気が高い案を、実際に作ろう、という話になりました。これがその展覧会の様子。左のパネルには、僕のスケッチなど。

この展覧会に合わせて、僕が書いたテキスト。古今東西の、空中庭園に関するテキストを集めました。

<空中庭園をめぐるノート>               
 
「空中庭園〜バビロンを再建したネブカドネザル二世が王妃のために建造した巨大な角錐状の人工庭園。宮殿の北東部に位置し大河に接していた。」
−岩成達也「空中庭園のためのスケッチ、若干」
 
 「くちづけや、愛のあまりにこぼれるよだれ、下卑たしあわせ感、愛しあう者の、どこがどちらともわからないからみあいの、海のうねりのような動き−私の心は私にこういうものの持つ孤独をおしえてくれた。私が空中庭園を高く釣り上げたのはそのためであって、」
−ポール・ヴァレリー「セミラミスのアリア」、中井久夫訳
 
 「生きたいという自然な欲求が、私の胸にふるえるような喜びを生み、すぐに、これはひょっとすると何とかしてこのやりきれない状況から救われるかもしれない、 という希望がわいた。しかし同時に、人間の住む島が空中に浮かんでいて、人間の思うままに上昇したり下降したり、また前進したり出来る(どうもそうらしい)のを見た私の驚きを、読者はまず想像もできないだろう」
スウィフト「ガリヴァー旅行記/第三部、ラピュタ」梅田昌志郎訳
 
 Laputa
ラピュータ。バルニバービ島の上空を浮遊する飛島。王みずからもここに住む。直径7837ヤードの円形をなし、巨大な一個の磁石によって動く。
ラピュータ人は数学と音楽と天文学に夢中で、そのどれもがこの国では非常に高い水準に達している。
 
 屋上庭園の、32のアンリアルな思考の破片と、その全体から蒸留され、抽出されゆくはずの、33番めのリアルな未来形。
−NANYODO ROOFTOP PROJECT, BY PROSPECTOR−

そして、僕が描いたスタディのスケッチ。

そんな形で、人気投票と打ち合わせを経て、予算や施工の技術的問題等、いろいろ検討した結果、次の案を具体化することになりました。

コンセプトは、「小さな空中庭園」「都市に浮かぶ茶室のようなスペース」です。南洋堂はお茶の水・駿河台の交差点に位置しており、この屋上からの眺めが素晴らしい。なので、それをうまく活かしながら、道ゆく人にPRする空間的仕掛けを考えました。

で、これが施工途中の様子。

共同設計者の今村さん、山本さんと僕と、それぞれの事務所スタッフも、一緒に現場を手伝いました。鉄はものすごく重かった・・・でも、みんなで一緒になって作り上げるのは、すごく楽しかった!

そして完成し、こんな感じに。

写真撮影:山本想太郎

3種類の直径からなるステンレスの円盤を、ランダムに組み合わせたデザインです。軒裏を鏡面仕上げとし、赤く塗ったフローリングが反射して、道ゆく人の注意を引く、サイン塔となることを意図しました。

ここでは、僕のエッセイ集である『ブリコラージュの伝言』の出版記念パーティもやらせていただきました。この本は売り切れて、残念ながら絶版です。

また、このルーフラウンジの植栽部分は、ランドスケープデザイナーの石川初さんにご協力いただきました。下記は、石川さんのアイデアによるランドスケープの概念図。

完成後、その施工プロセス自体を紹介する展覧会もやらせていただきました。こんな感じ。

この南洋堂ルーフラウンジは、『新建築』2006年10月号で紹介されています。この掲載誌の写真中、黒いシャツを着て写っているは、僕です(笑)。

ではまた!